戻る「ことば」という補助線

 人文・社会学系学問は「世界をある視点から把握し、私たちの生き方をより豊かにすること」を大きな目的とし、大学では「独自の視点」「物事を見る力」「協働する力」の育成を課題としている。漠然としたイメ-ジや断片的な理解から出発する学生は、複雑化する世界について理解を深めていく。若者の「草食化」や「内向き志向」ともいわれているが、「世界を知りたい」と願う学生も多い。実体験を通じた学びの影響は大きく、言語や文化への興味から、「本場」へと足を運ぶ学生も多い。

 時間や資金の制約から、「短期語学留学」は学生にとって魅力的に映るようである。特に「英語留学」の人気は高い。「グローバルな視野」「世界の共通語」「キャリア形成」などの文句を用い、レベル別・目的別の「品質保証」された語学学習サービスが私たちの生活の中でも宣伝されている。マンツーマン形式で学ぶ「格安英語留学」も商品化され、フィリピンも注目されている。現地を英語学習目的で訪問する日本人は2015年に3万人を超え、近々5万人を達成する見込みだ。また、フィリピン人英語講師による「オンライン英会話」も、身近になっている。英語で結びつく新たな日比関係が築かれつつあるが、「フィリピン留学」に対する懸念も抱いている。その理由は、「安近短」(安い費用、近い距離、短い日程)、「うまい、安い、早い」ではないが、英語を割安商品(モノ)として捉える消費者意識がどこかにあり、購買意欲を刺激する要素が詰込まれた「パッケージ商品」を提供する企業や、市場経済の原理の上に成り立つ広告活動の活発化があるからである。

 日比関係の一面に触れるため、フィリピンへ引率した学生たちに英語レッスンを体験してもらったが、現地の人々との交流から学ぶことのほうが多く、「英語学習ではなく、フィリピンにもっと触れたかった」との感想であった。「ことばへの眼差し」から世界を理解しようとする試みには、ことばへの「意識」「思考」「行動」というコミュニケーションに不可欠な知的動作が含まれ、ことばを使う人々、彼らが暮らす社会や文化に通じている。しかし、商品とされる英語には、この回路が閉ざされているように思われる。

 「英語を学ぶ」と「英語で学ぶ」の違いについての議論は多い。「ことばへの意識」を手がかりに補助線を引き、世界に向き合おうとする学生たちは、美辞麗句が並ぶパッケージ商品に含まれない「出会いからの学び」の大切さや面白さに気づき始めているようである。

小張 順弘 (国際関係学部多文化コミュニケーション学科 講師)

〈2016年10月26日更新〉