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誰もが国際社会の一員、
「国際平和」の行方は
遠い国の問題じゃない!

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#亜大の研究
向 和歌奈 准教授
国際関係学部 国際関係学科
2024.08.01
シリーズ企画「面白くなければ学問じゃない!」では、亜細亜大学の教員陣の研究内容やエピソードを紹介します。第8回の特集は、国際関係学部 国際関係学科 向 和歌奈 准教授です。
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世界がどのように動いているのか知りたかった

世界とのつながりは、幼少期にさかのぼります。私は小学校入学前の2年間を米国で過ごしました。帰国してからは一貫して日本の教育を受けてきましたが、両親の教育方針で英語の勉強は地道に続けてきました。小学生の頃は、今とは違い、周りに英語を話す人は誰一人おらず、英語を話せる自分が異質な存在でもありました。なぜ人と違うことをしなければならないのか。英語はそれほど大事なものなのか。その時は理解できずにいました。少しだけ英語を嫌いになりかけた時もありました。それでも、いま何不自由なく世界中の人々とコミュニケーションをとれるのは、幼少期からの努力があったからだと感じます。
やがて私は高校の「政治・経済」の授業をきっかけに、この世の中がどのような仕組みで、どう動いているのかということに関心を抱くようになりました。特に国際政治への関心が増し、英語力を高めつつ国際政治についても学べる大学ということで東京外国語大学外国語学部英語専攻に進学。3~4年次には念願の国際関係論のゼミに所属して、国際社会への知見を広げていきました。そのなかで、たまたま読んだ新聞記事の特集で「非核兵器地帯」という取り組みを知り、「核兵器」の軍事的・政治的なパワーが国際政治を揺り動かしてきた事実と、それに対する国際社会の平和への努力についてもっと知りたくなり、このテーマで卒業論文を書きました。その過程で自分の大学にはない資料を他大学の図書館に借りに行ったり、大阪大学まで足を運んで核軍縮研究の第一人者にお話をうかがったこともありました。
大学卒業後の将来を考えるにあたっては、「核兵器のない世界」の実現に貢献できる国連機関などで働いてみたいという希望がありました。そのためには少なくとも大学院でマスター(修士号)を取得する必要があります。そこで大学卒業後、東京大学大学院に進学。国際政治学の第一人者であった藤原帰一先生のもとで、核兵器をめぐる国際政治について、特に核軍縮の側面に焦点をあてつつ研究を進め、(時間はかかりましたが)最終的にはドクター(博士号)を取得しました。
 
 

国際社会の「核軍縮」に向けた取り組みとは?

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大学院で研究者として鍛えられた私は、シンクタンクの研究員などを経て、亜細亜大学国際関係学部で教えることになりました。
大学教員になって気付いたのは「私は教えることが好き」ということでした。また同時に「教えることの難しさ」も痛感しています。大学教員というのは、私を含めてあくまで研究者としてのキャリアを築いてきた人々で、多くの場合は、高校までの教員のように教えるプロの証である教員免許状を持っていません。その代わり、各自がそれぞれの分野における「プロ(専門家)」ではあります。自分が関心を持って研究してきた国際政治や核軍縮の問題を、学生たちが「自分自身の問題」として捉えてくれるよう、どのようにわかりやすく教えられるかを日々試行錯誤しています。
学部科目「国際政治入門」や「国際安全保障論」では、私たちが国際政治を学ぶ意義や主な課題についての解説をしています。上級生向けの「Global Governance」では英語のみで授業を行っています。3~4年生を対象にしたゼミナールでは「安全保障から考える世界」をテーマに、私の専門分野である核軍縮や軍備管理などについて学生たちと議論を重ねています。学生たちに教えるばかりではなく、逆に学生たちとの議論から学ぶことも多いです。
核兵器が人類にとって大きな脅威であることは誰もが理解していることです。特に戦争被爆国に住む私たちは、その被害の甚大さを子どもの頃から学んできました。
にもかかわらず、原爆投下から80年経とうとする今もなお、世界は核兵器の脅威に晒されたままです。もちろん国際社会は、ずっと手をこまねいていたわけではありません。1970年に発効したNPT(核不拡散条約)は、すでに国際社会に核兵器が存在しているという現実を受け入れた上で、NPTで核保有を認められている5カ国(米・露・英・仏・中)を中心に核兵器を減らす取り組み=「核軍縮」、核兵器や関連資機材・技術をこれ以上世界に拡散させない取り組み=「核不拡散」、そして締約国が平和目的で原子力を利用するための奪い得ない権利の保証=「原子力の平和利用」を三本柱とした条約で、191カ国が加入しています。ただし、核兵器を保有する国は、この5カ国のほかに、パキスタン、インド、北朝鮮、イスラエルの4カ国を加えた計9カ国も存在します。条約があるからといって、問題が解決するという単純な構造ではないのです。このような現状に対して、国際社会では引き続き核兵器の数を減らすための多様な取り組みを進めています。

長く険しい「核兵器のない世界」への道のり

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2009年、チェコの首都プラハで当時の米国大統領バラク・オバマは米国が先頭に立って「核兵器のない世界」を追求する決意を表明し、そのための具体的な目標を示しました。核兵器を使用したことがある唯一の核保有国としての道義的責任に言及したこの「プラハ演説」は世界中の人々の心を揺さぶり、同年オバマ大統領はノーベル平和賞を受賞しています。
2017年には核兵器を包括的に法的禁止とする初めての国際条約である「核兵器禁止条約」が採択されました(発効は2021年)。
2023年には、原爆が投下された広島で開催された主要7カ国首脳会議(G7サミット)において、核軍縮に焦点を当てたG7首脳による初の共同文書「核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン」が発表されました。G7首脳たちが広島平和記念資料館を見学し、被爆者から直接話を聞く機会を持てたことには、大きな意味があったと思います。そこには広島出身の岸田文雄総理の深い思いも込められていたでしょう。
ただし「核兵器のない世界」への道のりはまだまだ険しいのが現実です。広島でのG7サミットにはロシアに侵攻されたウクライナのゼレンスキー大統領も出席していましたが、ウクライナ情勢をめぐりロシアのプーチン大統領は最近、欧州を射程に収める戦術核兵器の演習実施を指示しました。また、緊迫するパレスチナのガザ地区でイスラム組織ハマスへの攻勢を強めるイスラエルで閣僚が「原子爆弾の投下が一つの選択肢」と発言したこともありました。
日本にとっては、核保有国である中国による台湾侵攻の可能性や北朝鮮による核実験の可能性、さらには同国による日本海に向けたミサイル発射実験が国家安全保障上の大きな問題となっています。 地球という惑星に生きる私たち一人ひとりがグローバルな運命共同体であることを認識し、100年後の子孫のために粘り強く平和へのプロセスを一歩一歩進めるしか、「核兵器のない世界」を実現する道はありません。そのためには国際政治だけでなく、国際関係学科が提供する、政治体制、国際法、外交、開発協力、経済、ビジネスなど様々な分野での学びを通して、平和を志向する「人」を育てる「教育」もきわめて重要なファクターとなります。


平和な世界をつくるのは一人ひとりの「考える力」

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私の授業をとる学生たちにアンケートを取ってみたところ、ウクライナやガザ地区、あるいは北朝鮮によるミサイル発射実験などをきっかけとして、国際政治や核兵器についてもっと知りたいと思うようになったという回答が多く見られました。ウクライナやガザ地区で起きていることを報道で知った学生たちは、力と力の対立が平和な世界を生まないことを痛感させられているのでしょう。「なぜ国と国の争いごとが起きるのか?」「なぜ人類を破滅させかねない核兵器をなくすことができないのか?」「なぜ自分たちと同じ世代の若者が不幸な思いをしているのか?」こうした問題意識を持ち、世界で起こっていることを自分事として捉え、そして自分の頭でしっかりと「考えられる力」を持った学生を、私は一人でも多く世の中に送り出したいと思っています。
なぜなら核兵器の問題を含む国際政治全体の行方は、国内社会の在り方、経済、金融、あるいはエネルギー問題にも直結し、学生たちの未来を大きく左右するものだからです。18歳以上の大学生はすでに平和な世界をつくるための「バトン」を手渡されています。それをつなぐ行動のひとつが「選挙に行くこと」。投票率の低下が懸念される昨今ですが、私のゼミでは投票することの意味をしっかりと話し合い、全員が自らの考えのもとよりよい社会を作ってくれると期待する候補者に1票を投じています。授業やゼミでの学びを活かし、自ら考えて行動できる人が一人でも多く育ってほしいです。
先ほど「教えることが好き」と言いましたが、より正確に言うと、私は「学生が目の前で成長していく姿を見るのが好き」なのです。学生の中に才能の芽を見出し、それを伸ばして社会に出る準備を一緒に行えることは、大学教員冥利に尽きます。私自身も彼らに負けないよう専門家としてさらに研鑽を積み、「核兵器のない世界」実現のために微力ながら貢献していきたい。毎年何人もの学生が成長して社会に巣立っていく姿を見ながら、そんな思いを新たにしています。
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