世界で戦う
アスリートの
メンタルとは?
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#亜大の研究
立谷 泰久 教授
健康スポーツ科学部 健康スポーツ科学科
2026.07.01
シリーズ企画「面白くなければ学問じゃない!」では、亜細亜大学の教員陣の研究内容やエピソードを紹介します。第22回の特集は、健康スポーツ科学部 健康スポーツ科学科 立谷 泰久 教授です。
野球少年からスポーツ心理学の研究者へ
実は子どもの頃から選手の気持ちがプレーに影響すると感じており、特に高校時代には技術向上だけではなくメンタル面を良い状態にしなければ試合で結果が出せないことを痛感していました。
大学で心理学の授業を受けて、そうした競技力と心の関係にますます関心を持つようになり、3年次に体育・スポーツ心理学のゼミに入りました。ゼミの先生はわが国のメンタルトレーニングの第一人者でした。ゼミを通してスポーツにおけるメンタルトレーニングの可能性への関心が深まり、学部卒業後も大学院に進んで同じ先生の下で助手として研究や支援を行い、スポーツ心理学、メンタルトレーニングの研究者の道へ踏み出すことになりました。
亜細亜大学健康スポーツ科学部の教員になる前までは、国立スポーツ科学センター(JISS)の研究員として、オリンピック日本代表などトップアスリートのパフォーマンス向上を目的とした研究と、さまざまな競技の選手やチームへのメンタルサポートに携わってきました。
世界の舞台でトップアスリートをサポート
JISSの研究員となった私は、基礎研究というより実際の試合やトレーニングの現場に直結する応用研究に力を注ぎ、「競技現場で本当に役立つかどうか」を重視してきました。
JISSでは、オリンピックや世界選手権などに帯同する機会も数多くありました。最初にオリンピック日本代表チームにメンタルコーチとして参加したのは2010年のバンクーバー(カナダ)冬季オリンピック大会でした。その後も2014年ソチ大会(ロシア)、2018年平昌大会(韓国)と冬季オリンピックで経験を積んでいきました。
大会期間中は代表チームと共に過ごし、選手たちがどのような緊張感の中で戦っているのかを間近で見てきました。世界大会では、わずかな判断や気持ちの揺らぎが結果を左右します。そんな極限状態の中で、選手や指導者が何を考え、どのように準備し、本番に向かっていくのか……。その過程を支えることは、非常に責任が重く、私にとっても大きなプレッシャーがかかる仕事でしたが、同時にメンタルトレーニング研究者としては貴重な経験でもありました。
そしていよいよ自国開催の「東京2020」。私は男子ハンドボール日本代表チームのメンタルコーチを務めることになりました。男子ハンドボールの選手たちは、1988年ソウル大会以来となるオリンピック出場を目指し、強化を重ねていました。ところが、2019年の世界選手権では24カ国中最下位という厳しい結果となってしまいました。チーム力は確実に向上しているにもかかわらず、勝ち切れず、リードを守り切れない……。指導者たちは、その原因の一つに「メンタル面の課題」があると分析。そこで私にメンタルサポートが託されたのです。
さっそく合宿時を中心に、継続的な講習会を実施し、メンタルトレーニングの基礎だけではなく、チーム内のコミュニケーション向上、チームビルディング、プレッシャーへの向き合い方など、多角的なテーマを扱いました。選手たちは自分たちの課題から目を背けず、どうすれば世界で戦えるのかを真剣に考え続け、やがて国際大会でも本来の力を発揮できるようになっていきました。
ところが、新型コロナウイルスのパンデミックにより東京オリンピックは1年延期となってしまいました。代表選手たちは先の見えない状況の中で大きな不安やストレスを抱えることになります。私はメンタル面のサポートを続けながら、「今できることに集中する」という姿勢をチームと共有していきました。
そして迎えた2021年夏の本大会。日本代表は、実に30数年ぶりとなるオリンピックでの勝利をつかみ取りました。選手たちが積み重ねてきた努力や葛藤が一気に報われた瞬間でした。その成果は、男子日本代表「彗星JAPAN」が36年ぶりに自力で2024パリ大会の出場権を獲得したことにもつながっていきます。
ハンドボールはヨーロッパ勢が圧倒的に強い競技です。身体能力や経験で劣る日本代表は、「どうすれば強豪国に対抗できるか」を真剣に考え続け、特に課題だったメンタル面の改善にチーム全体で取り組みました。大切なのは、自分自身やチームの現状を振り返り、分析し、そこから何を改善できるかを考えて行動することです。そして、失敗しても挑戦をやめないことだと思います。
JISSでは、オリンピックや世界選手権などに帯同する機会も数多くありました。最初にオリンピック日本代表チームにメンタルコーチとして参加したのは2010年のバンクーバー(カナダ)冬季オリンピック大会でした。その後も2014年ソチ大会(ロシア)、2018年平昌大会(韓国)と冬季オリンピックで経験を積んでいきました。
大会期間中は代表チームと共に過ごし、選手たちがどのような緊張感の中で戦っているのかを間近で見てきました。世界大会では、わずかな判断や気持ちの揺らぎが結果を左右します。そんな極限状態の中で、選手や指導者が何を考え、どのように準備し、本番に向かっていくのか……。その過程を支えることは、非常に責任が重く、私にとっても大きなプレッシャーがかかる仕事でしたが、同時にメンタルトレーニング研究者としては貴重な経験でもありました。
そしていよいよ自国開催の「東京2020」。私は男子ハンドボール日本代表チームのメンタルコーチを務めることになりました。男子ハンドボールの選手たちは、1988年ソウル大会以来となるオリンピック出場を目指し、強化を重ねていました。ところが、2019年の世界選手権では24カ国中最下位という厳しい結果となってしまいました。チーム力は確実に向上しているにもかかわらず、勝ち切れず、リードを守り切れない……。指導者たちは、その原因の一つに「メンタル面の課題」があると分析。そこで私にメンタルサポートが託されたのです。
さっそく合宿時を中心に、継続的な講習会を実施し、メンタルトレーニングの基礎だけではなく、チーム内のコミュニケーション向上、チームビルディング、プレッシャーへの向き合い方など、多角的なテーマを扱いました。選手たちは自分たちの課題から目を背けず、どうすれば世界で戦えるのかを真剣に考え続け、やがて国際大会でも本来の力を発揮できるようになっていきました。
ところが、新型コロナウイルスのパンデミックにより東京オリンピックは1年延期となってしまいました。代表選手たちは先の見えない状況の中で大きな不安やストレスを抱えることになります。私はメンタル面のサポートを続けながら、「今できることに集中する」という姿勢をチームと共有していきました。
そして迎えた2021年夏の本大会。日本代表は、実に30数年ぶりとなるオリンピックでの勝利をつかみ取りました。選手たちが積み重ねてきた努力や葛藤が一気に報われた瞬間でした。その成果は、男子日本代表「彗星JAPAN」が36年ぶりに自力で2024パリ大会の出場権を獲得したことにもつながっていきます。
ハンドボールはヨーロッパ勢が圧倒的に強い競技です。身体能力や経験で劣る日本代表は、「どうすれば強豪国に対抗できるか」を真剣に考え続け、特に課題だったメンタル面の改善にチーム全体で取り組みました。大切なのは、自分自身やチームの現状を振り返り、分析し、そこから何を改善できるかを考えて行動することです。そして、失敗しても挑戦をやめないことだと思います。
トップアスリート特有の心理を研究する
オリンピックでのメンタルサポートを続ける中で、私はあることに気付きました。それはトップアスリートならではの心理的特徴があるということです。
世界の頂点で戦う選手たちは、単に肉体的な能力が優れているだけではありません。困難な状況でも自分を保つ力、自分を理解・分析する力、競技に没頭する力など、心理的な面で共通する特徴があるように感じました。
そこで私はオリンピックでの経験を活かしつつ研究仲間とともに「トップアスリートに必要な心理的要因」を明らかにする研究に取り組みました。そしてその研究成果として「JISS競技心理検査(J-PATEA:JISS-Psychological Ability Test for Elite Athletes)を開発しました。これはトップアスリートの心理面を測定する検査で、従来の心理検査で十分ではなかった客観性、自己分析力、一貫性などアスリートの「自己理解」に関する項目を重視していることが特色です。数百人のアスリートへのアンケート調査やトップアスリートへのインタビューを重ね、科学的・統計学的な手順によって作成しておりますので、きわめて信頼性の高い検査だと自負しています。検査結果は単に数値の高低で判断するのではなく、選手個人の課題や長所、成長の可能性などを把握するために使われ、メンタルトレーニングやカウンセリングはもちろん、普段の練習に活かすこともできます。そして現在、J-PATEAの検査結果をどのように活かし競技力向上を図るか、その方法論の構築に力を注いでいます。
世界の頂点で戦う選手たちは、単に肉体的な能力が優れているだけではありません。困難な状況でも自分を保つ力、自分を理解・分析する力、競技に没頭する力など、心理的な面で共通する特徴があるように感じました。
そこで私はオリンピックでの経験を活かしつつ研究仲間とともに「トップアスリートに必要な心理的要因」を明らかにする研究に取り組みました。そしてその研究成果として「JISS競技心理検査(J-PATEA:JISS-Psychological Ability Test for Elite Athletes)を開発しました。これはトップアスリートの心理面を測定する検査で、従来の心理検査で十分ではなかった客観性、自己分析力、一貫性などアスリートの「自己理解」に関する項目を重視していることが特色です。数百人のアスリートへのアンケート調査やトップアスリートへのインタビューを重ね、科学的・統計学的な手順によって作成しておりますので、きわめて信頼性の高い検査だと自負しています。検査結果は単に数値の高低で判断するのではなく、選手個人の課題や長所、成長の可能性などを把握するために使われ、メンタルトレーニングやカウンセリングはもちろん、普段の練習に活かすこともできます。そして現在、J-PATEAの検査結果をどのように活かし競技力向上を図るか、その方法論の構築に力を注いでいます。
学生たちと、新たな学びのフィールドをつくりたい
2026年度より、およそ30年ぶりに大学教育の現場に戻ることになり、自分の子どもと同世代の若い学生と接することにとてもワクワクしています。そして亜細亜大学は硬式野球部、陸上競技部など全国屈指のスポーツ強豪校。硬式野球部からはプロ野球選手を多く輩出しており、2026年WBC侍ジャパン監督の井端弘和さんも亜細亜大学OBです。これまでの私のメンタルトレーニングなどの研究成果や経験をぜひ各競技の大学生アスリートの皆さんにも使っていただきたいと思っています。
学部の授業では、スポーツ心理学を通して学生に自分の人生について考えてほしいと思っています。人生という言葉は少し大げさに聞こえるかもしれません。しかし、人は誰でも、自分の生き方について真剣に考える瞬間を迎えます。そのときに、自分と向き合い、考え抜く力が、その後の成長や人生に大きな影響を与えます。
スポーツ心理学は、単に気持ちを強くする学問ではありませんし、実はアスリートだけのものでもありません。たとえばビジネスのトップリーダーもJ-PATEAの検査項目である「自己理解」の面で高い能力を有していると思います。スポーツ心理学を学ぶことで、皆さんの人生を豊かに幸せにするためのヒントがたくさん得られるはずです。私は学生の皆さんには、自分の可能性を信じてたくさん挑戦してほしいと思っています。そのために私が手伝えることがあれば協力を惜しみませんし、学生の皆さんの好奇心を刺激し、夢や希望を与えられるような教員でありたいと思っています。
私も大学時代にメンタルトレーニングの第一人者である恩師に出会って、スポーツ心理学、メンタルトレーニングの専門家としての現在があります。今、大学生に教えることはその恩返しになるのではないかと思っています。同時に、私自身も学生の皆さんから多くを学びたいと思っています。若い世代ならではの感性や発想に触れながら、お互いに刺激を受けて、人間として成長できればうれしいです。
学部の授業では、スポーツ心理学を通して学生に自分の人生について考えてほしいと思っています。人生という言葉は少し大げさに聞こえるかもしれません。しかし、人は誰でも、自分の生き方について真剣に考える瞬間を迎えます。そのときに、自分と向き合い、考え抜く力が、その後の成長や人生に大きな影響を与えます。
スポーツ心理学は、単に気持ちを強くする学問ではありませんし、実はアスリートだけのものでもありません。たとえばビジネスのトップリーダーもJ-PATEAの検査項目である「自己理解」の面で高い能力を有していると思います。スポーツ心理学を学ぶことで、皆さんの人生を豊かに幸せにするためのヒントがたくさん得られるはずです。私は学生の皆さんには、自分の可能性を信じてたくさん挑戦してほしいと思っています。そのために私が手伝えることがあれば協力を惜しみませんし、学生の皆さんの好奇心を刺激し、夢や希望を与えられるような教員でありたいと思っています。
私も大学時代にメンタルトレーニングの第一人者である恩師に出会って、スポーツ心理学、メンタルトレーニングの専門家としての現在があります。今、大学生に教えることはその恩返しになるのではないかと思っています。同時に、私自身も学生の皆さんから多くを学びたいと思っています。若い世代ならではの感性や発想に触れながら、お互いに刺激を受けて、人間として成長できればうれしいです。