
「空間の再生」で空き家も、
コミュニティも、生まれ変わる!
コミュニティも、生まれ変わる!


#亜大の研究
白井 宏昌 教授
都市創造学部 都市創造学科/社会学部長(就任予定)
2024.07.01
シリーズ企画「面白くなければ学問じゃない!」では、亜細亜大学の教員陣の研究内容やエピソードを紹介します。第7回の特集は、都市創造学部 都市創造学科/社会学部長(就任予定) 白井 宏昌教授です。

2つのオリンピック大会のプロジェクトに関わる
そこで思い切って会社を退職し、文化庁派遣芸術家在外研修員に選出されたことにより、2001年にオランダへ行くことになりました。著名なオランダ人建築家レム・コールハースが主宰する建築設計事務所で様々な建築・都市設計プロジェクトに関わりました。コールハースはもともとジャーナリスト・著述家という異色の経歴を有する建築家で、ユニークな形状の建築物を多く手がけていました。私が関わったプロジェクトには中国の国営公共放送「中国中央電視台」の本社ビルがありました。当時の中国は2008年の北京オリンピック大会に向けて動き始めていた時期でした。コールハースが提案した2本のタワーが上部で繋がっている斬新なデザインを採用したのも変わろうとする中国という国家の意志だったのかもしれません。私は北京に駐在しながらその変わりゆく中国を体感し、オリンピック大会と都市づくりとの関係に大いに興味を刺激されることになりました。
そこで今度は英国・ロンドンに渡り、ロンドン大学政治経済学院(ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス)で「オリンピックと都市」をテーマにした研究に取り組みました。するとまったく偶然なのですが、北京の次にロンドンでのオリンピック大会が決まりました。そのラッキーな巡り合わせに自分でも驚きながら、研究活動と並行してロンドンでのオリンピック会場のマスタープランづくりに関わることになりました。
「リフォーム」から「リノベーション」へ

ロンドンで博士号(PhD) を取得した私は、2010年に東京に戻って設計事務所を開設。日本だけでなく、台湾や中国にも拠点を作り、アジア圏での建築設計や都市作りのプロジェクトを多く経験しました。そして2013年9月、今度は東京2020オリンピック大会開催が決定し、私の行くところにいつも「オリンピック」が追いかけてくる不思議な巡り合わせにまたもや驚くことになりました。
2015年からは滋賀県立大学での教育・研究活動に携わることになり、ここで私は新しい知見を得ました。東京で生まれ育ち、これまで海外も含め大都市でしか生活してこなかった私にとって、滋賀という「地方」の生活環境はとても新鮮に思えました。豊かな自然など都会では味わえない地方ならではの良さもあります。しかしその一方で社会問題化している空き家の増大は地方の方が深刻です。この空き家問題は、急速な少子高齢化が進行する日本全体の問題でもあり、私は地域に残る古民家などの活用や再生をテーマに、自分の建築家としての経験を活かした実践的な研究活動を進めていきました。これまではオリンピックや都市開発などの大きなプロジェクトに関わってきましたが、ここではジャージ姿で自ら工具を手に学生とともに古民家を生まれ変わらせる作業に従事しました。楽しかったですね。この実践的な研究活動で私が目指していたのは、単なる修復「リフォーム」ではなく、現在と未来を見据えた新しい価値を付加する「リノベーション」です。
現在の私の研究テーマである「空間の再生」は、この時の体験がベースになっており、今あるものを有効利用することで持続可能な社会を築く新しい「建築家」のあり方を模索するものでもあります。
2015年からは滋賀県立大学での教育・研究活動に携わることになり、ここで私は新しい知見を得ました。東京で生まれ育ち、これまで海外も含め大都市でしか生活してこなかった私にとって、滋賀という「地方」の生活環境はとても新鮮に思えました。豊かな自然など都会では味わえない地方ならではの良さもあります。しかしその一方で社会問題化している空き家の増大は地方の方が深刻です。この空き家問題は、急速な少子高齢化が進行する日本全体の問題でもあり、私は地域に残る古民家などの活用や再生をテーマに、自分の建築家としての経験を活かした実践的な研究活動を進めていきました。これまではオリンピックや都市開発などの大きなプロジェクトに関わってきましたが、ここではジャージ姿で自ら工具を手に学生とともに古民家を生まれ変わらせる作業に従事しました。楽しかったですね。この実践的な研究活動で私が目指していたのは、単なる修復「リフォーム」ではなく、現在と未来を見据えた新しい価値を付加する「リノベーション」です。
現在の私の研究テーマである「空間の再生」は、この時の体験がベースになっており、今あるものを有効利用することで持続可能な社会を築く新しい「建築家」のあり方を模索するものでもあります。
実家で気づいたローコストな住宅再生の重要性

そんな私は一人の建築家として個人的な「課題」を抱えていました。それは東京にある実家の再生です。
長く住んできた2階建ての家が高齢となった親にとってすっかり住みにくい環境になっていたのです。建てた時点と数十年後では住みやすさのあり方はまったく変わります。年齢やライフスタイルの変化に応じて住宅に手を入れていくことは、高齢化が進むこれからますます必要になっていくことでしょう。しかし高齢者にとって住宅を建て直したり、建築家にオーダーメイドの本格的な改修を依頼するのは費用の面からも誰もができることではありません。
実家の再生を通して見えてきたこうした課題を解決するヒントは、かつて台湾で仕事をしていた時に見聞した住宅事情にありました。東京の町を歩くと同じようなマンションや建売住宅が整然と並んでいる光景を目にします。ところが台湾の住宅街はもっと雑然としています。なぜかというと、台湾の人たちはマンションでも住民が自分たちで改造したり増築したりしているのです。ところがこうした作業を請け負う業者や建築資材の仕入れ先は限られているので、雑然とした中にも不思議な統一感があります。
もちろん台湾の例をそのまま日本に持ってきても違法建築になりますけれど、そうした多様性と統一感を兼ね備えた空間を、素人のDIY(Do It Yourself)とプロによる建築の間のような方法で実現していくやり方は大いに魅力的です。そしてそれこそがローコストでそれぞれが住みやすい住環境を創り出す一つのあり方ではないかと考えています。
また、もっとも手軽に取り組める方法としてはペイントによるリノベーションがあります。日本の家屋の壁面や天井は白やベージュ、茶色など地味な色が多いのですが、市販のペイントでたとえば緑やオレンジ色、黄色に塗り替えるだけで雰囲気はもちろん、その空間と人との関係性を変えることもできます。
さらにローコストでのリノベーションに加え、今後高齢化社会の進展と共に「人が集まる場所」も重要になってくるでしょう。地域社会の中にみんなに開かれた場所を創る「コミュニティ・アーキテクト」としての可能性を探求することも今私が力を入れていることの一つです。
長く住んできた2階建ての家が高齢となった親にとってすっかり住みにくい環境になっていたのです。建てた時点と数十年後では住みやすさのあり方はまったく変わります。年齢やライフスタイルの変化に応じて住宅に手を入れていくことは、高齢化が進むこれからますます必要になっていくことでしょう。しかし高齢者にとって住宅を建て直したり、建築家にオーダーメイドの本格的な改修を依頼するのは費用の面からも誰もができることではありません。
実家の再生を通して見えてきたこうした課題を解決するヒントは、かつて台湾で仕事をしていた時に見聞した住宅事情にありました。東京の町を歩くと同じようなマンションや建売住宅が整然と並んでいる光景を目にします。ところが台湾の住宅街はもっと雑然としています。なぜかというと、台湾の人たちはマンションでも住民が自分たちで改造したり増築したりしているのです。ところがこうした作業を請け負う業者や建築資材の仕入れ先は限られているので、雑然とした中にも不思議な統一感があります。
もちろん台湾の例をそのまま日本に持ってきても違法建築になりますけれど、そうした多様性と統一感を兼ね備えた空間を、素人のDIY(Do It Yourself)とプロによる建築の間のような方法で実現していくやり方は大いに魅力的です。そしてそれこそがローコストでそれぞれが住みやすい住環境を創り出す一つのあり方ではないかと考えています。
また、もっとも手軽に取り組める方法としてはペイントによるリノベーションがあります。日本の家屋の壁面や天井は白やベージュ、茶色など地味な色が多いのですが、市販のペイントでたとえば緑やオレンジ色、黄色に塗り替えるだけで雰囲気はもちろん、その空間と人との関係性を変えることもできます。
さらにローコストでのリノベーションに加え、今後高齢化社会の進展と共に「人が集まる場所」も重要になってくるでしょう。地域社会の中にみんなに開かれた場所を創る「コミュニティ・アーキテクト」としての可能性を探求することも今私が力を入れていることの一つです。
若い世代に期待する日本の「リノベーション」

亜細亜大学の講義では、これまでの建築家としての経験に基づく、都市創造やリノベーションのお話をしています。
一方、ゼミの学生にはリノベーションについてグループで実践的に学んでもらっています。まずは自分たちがいつも過ごしている亜細亜大学キャンパスのリノベーション案から始めます。勝手知ったるキャンパスだけに、思い切った提案も出てきて、これがなかなか楽しいのです。
次の段階として、キャンパスのある武蔵野市のお隣、三鷹市のNPO法人三鷹ネットワーク大学推進機構が主催する「学生によるミタカ・ミライ研究アワード」で、新しい地域社会づくりに関する研究成果を発表してもらいます。そう、先ほど申し上げた「コミュニティ・アーキテクト」の実践です。こちらは大学キャンパスと異なり、まずどのような地域なのかをしっかり下調べすることから始めます。私はそうした調査のやり方やプレゼンテーションの手法に関するアドバイスは行いますが、提案アイデアそのものは学生たちに委ねています。学生たちは悪戦苦闘しながらも完成度の高いプレゼンを行い、昨年(2023年)は玉川上水沿いを整備して多くの地域住民が行き交うコミュニティスペースとして再生するという提案で「優秀賞」をいただくことができました。ほかにも大根の産地でもある三鷹の生産緑地をコミュニティスペースとして利用する素晴らしいアイデアがありました。
私は未来を切り拓く若い世代に必要なのは、その人ならではのこだわりや視点を持つことだと思っています。また、決して数値化できない人としての個性や感性を磨くことも大切でしょう。私の講義やゼミで学生たちがそのことに気付き、それぞれが考える暮らしやすい地域や社会を多くの人々と協力しながら「リノベーション」してくれることを心から期待しています。
一方、ゼミの学生にはリノベーションについてグループで実践的に学んでもらっています。まずは自分たちがいつも過ごしている亜細亜大学キャンパスのリノベーション案から始めます。勝手知ったるキャンパスだけに、思い切った提案も出てきて、これがなかなか楽しいのです。
次の段階として、キャンパスのある武蔵野市のお隣、三鷹市のNPO法人三鷹ネットワーク大学推進機構が主催する「学生によるミタカ・ミライ研究アワード」で、新しい地域社会づくりに関する研究成果を発表してもらいます。そう、先ほど申し上げた「コミュニティ・アーキテクト」の実践です。こちらは大学キャンパスと異なり、まずどのような地域なのかをしっかり下調べすることから始めます。私はそうした調査のやり方やプレゼンテーションの手法に関するアドバイスは行いますが、提案アイデアそのものは学生たちに委ねています。学生たちは悪戦苦闘しながらも完成度の高いプレゼンを行い、昨年(2023年)は玉川上水沿いを整備して多くの地域住民が行き交うコミュニティスペースとして再生するという提案で「優秀賞」をいただくことができました。ほかにも大根の産地でもある三鷹の生産緑地をコミュニティスペースとして利用する素晴らしいアイデアがありました。
私は未来を切り拓く若い世代に必要なのは、その人ならではのこだわりや視点を持つことだと思っています。また、決して数値化できない人としての個性や感性を磨くことも大切でしょう。私の講義やゼミで学生たちがそのことに気付き、それぞれが考える暮らしやすい地域や社会を多くの人々と協力しながら「リノベーション」してくれることを心から期待しています。