面白くなければ学問じゃない!No.2

日本発!&世界初!人を夢中にさせる
「ゲームニクス理論」教えます

サイトウ・アキヒロメインINDEX
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#亜大の研究
サイトウ・アキヒロ 教授
都市創造学部 都市創造学科
2023.10.01
企画シリーズ「面白くなければ学問じゃない!」では、亜細亜大学の教員陣の研究内容やエピソードを紹介します。第2回目の特集は、都市創造学部 都市創造学科 サイトウ・アキヒロ 教授です。
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ファミコン誕生と
「ゲームニクス理論」
誕生前夜のこと

今からちょうど40年前の1983年7月、日本中の、いや世界中の人々のライフスタイルを大きく変えることになる画期的な商品が発売されました。通称「ファミコン」、そう任天堂のファミリーコンピュータです。実はこのファミコン、私の人生も大きく変えました。
 私は美術大学入学前からアニメーターなどの仕事を始め、大学卒業後は数々のCM制作に関わり、私が手掛けた作品はすでにテレビで放映され高い評価も受けていました。
 
そんな折に、任天堂のゲームを作っていた岩田聡さんと知り合い、彼からゲームづくりの仕事を手伝ってほしい、と依頼されたのです。岩田さんは非常に優れたプログラマーでしたが、ゲームに必須のビジュアル制作はできません。そこでアニメや映像の仕事で実績を重ねていた私に「一緒にゲームをつくってみませんか」と協力を求めたというわけです。
岩田さんとつくったファミコン向けのゲームは結果として任天堂ブランドで発売されていくこととなりました。以来、私はCM制作の仕事と並行しながら、ゲームクリエーターとしての経験を積むことになります。その間、後に任天堂社長になる岩田さんだけでなく「マリオ」「ゼルダの伝説」「ドンキーコング」などの生みの親である宮本茂さんなど、今では伝説的な存在となったゲームクリエーターと身近に接して仕事をしました。その時間は私にとってかけがえのない経験となり、やがてゲームの仕事が私の本業になりました。
 
当初、子どものおもちゃという扱いでしかなかったゲームですが、21世紀になると社会から重要なエンターテインメント「文化」の一つと認識されるようになりました。おかげでゲームクリエーターであった私が任天堂のある京都の大学から教員として招かれることになります。それまでゲームには特に学問体系などはありませんから、私は学生に教えるにあたって、ゲームづくりの経験とノウハウを自分なりに一つの体系としてまとめ上げました。それが「ゲームニクス理論」です。

開発現場から生まれた
人を夢中にさせる
方法論の集積

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「ゲームニクス理論」は既存の学術理論とは異なります。ゲーム開発現場で積み上げられた「人を夢中にさせる」具体的な方法論の集積、いわば草創期のゲーム職人たちの知恵と汗の結晶です。私はゲームニクス理論の構築にあたって、岩田さんたちと試行錯誤した経験を振り返りつつ、大きく「5つの要素」に分類し、それぞれの下に具体的なノウハウと作業を関連付けて理論体系として整理しました。そこには「人を夢中にさせるために必要なこと」がすべて網羅されているといっても過言ではありません。
ゲームニクス理論の「5つの要素」とは「①直感的で快適なインターフェース」「②マニュアル不要のユーザビリティ」「③はまる演出」「④段階的な学修効果」「⑤リアルとバーチャルのリンク」です。このうち最初の二つ「①直感的で快適なインターフェース」「②マニュアル不要のユーザビリティ」が特に重要な要素です。
「①直感的で快適なインターフェース」とは、画面の中でのボタンの配置方法、ボタンの形状などを適切に管理することで、誰もが直感的、本能的に操作できるコントローラーなどのインターフェースの最適化の追求です。コントローラーはゲームとユーザーをつなぐ唯一の接点。ファミコン成功の大きな要因には「十字キー+ABボタン」があり、ゲームの歴史とはこのインターフェース最適化追求の歴史と言い換えて良いほどです。 「十字キー」は今もゲームに使われていますね。あれは任天堂の画期的な発明でした。
「②マニュアル不要のユーザビリティ」とは、分厚いマニュアルを読まなくても、ゲームを楽しみながら複雑なルールと操作方法を理解してもらうため、デザインや音、アニメーションでユーザーを導いたり、ゲームの中にマニュアルを組み込むことで、知りたいときに知りたい知識を、押し付けがましくなくユーザーに提示する方法などについてまとめました。
さらに「③はまる演出」はゲームのテンポやシーンリズム、ストレスと快感のバランス、発見する喜びやゲームを持続させる仕掛けについて、「④段階的な学修効果」は自分で決める目標設定や押しつけではない学修効果など、長時間ゲームを楽しんでもらうためのノウハウ、そして「⑤リアルとバーチャルのリンク」は、今や主流となったネットワークとの連携で得られる楽しさと感動の演出について……これらの詳細について日々学生たちに教えていますが、ゲームをやりこんでいる彼らならふだん気付いていなくとも「なるほど!」と納得できることが多いはずです。

あらゆるものづくりに
応用できる
ゲームニクス理論

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ファミコン誕生からの40年で、ゲームというエンターテインメントは時代とともに大きく変化し続けています。還暦を過ぎた私がいまだに若い学生たちに教えることができるのは、今も現役でゲームに関わり続けているからです。とは言っても私は「ゲーム」のマニアではありません。あくまでも「ものをつくる」ことが大好きで、いつまでもやめられないだけです。好待遇でゲーム会社の役員に招かれたこともありましたが、興味がなくて断りました。私は経営者や管理職ではなく、あくまで「ものづくり」の人だからです。でも、若い学生を教えることは楽しく、教育という「ひとづくり」の仕事には大きなやりがいを感じています。
ゲームニクス理論は、そんな「ひとづくり」=教育の世界でも十分応用ができます。現在、教育のデジタル化が進んでいますが、私から見るとまだまだ……。勉強を単にゲームにするだけでなく、ゲームの仕組みの中で勉強を遊べるようにすることが肝心で、私もそうした楽しく学べるゲームをつくったことがありました。
さらに私は、ゲームニクス理論を今後の日本のものづくりに応用、実践してもらうため、さまざまな企業でゲームニクス理論を応用した製品開発のアドバイスを行っています。最近、事業化された例としてはトヨタ自動車と共同開発したゲーム感覚でリハビリテーションに取り組める「リハビリロボット」があります。このロボットを使用することで、ゲームに夢中になるようにリハピリに熱中し、従来比で約1.7倍の機能回復率を実現しました。
私たちの身の回りにはゲームニクス理論で解決できる課題がまだまだたくさん転がっています。たとえばボタンがたくさん付いているテレビリモコンやファミレスなど飲食店の注文用タブレット、スーパーの無人精算機など。これらに使いにくさを感じている人は多いはず。快適なインターフェースを重視するゲームニクス理論はこうした使いにくさを解消するのにも大いに役立つのです。都市の中にはタッチセンサーによる案内も増えてきました。これらにゲームニクス理論を応用すれば、われわれの生活は豊かで楽しいものにできるのです。

京都の「おもてなし」精神で
日本のものづくりを
元気に!

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ゲームは日本発のエンターテインメントです。実はファミコン登場前に米国の大手玩具メーカーが家庭用テレビゲーム機を発売していましたが、市場の成熟を見誤り大失敗。一度消えてしまったこの不毛のマーケットに、あえてもう一度ゲームの種を蒔いたのが任天堂でした。ファミコンというささやかな苗を一大産業として育成し、世界中で花を開かせたのはまさに日本のソフトパワーなのです。ましてやゲーム産業は今なお拡大を続けており、グローバルな市場規模はハリウッドなど映画産業を遥かに超えています。この一大エンターテインメント産業を日本が創造しリードしてきたということは、日本文化の歴史において奇跡と言ってもいいのです。
では米国が失敗したゲーム産業の確立をなぜ日本企業が成功させることができたのか。それは日本という国の伝統文化が息づく京都の「おもてなし」の精神です。現在では多くのインバウンドが、日本的なものに惹かれて京都の町を訪れています。京都の人々はそうした訪問者を楽しませ、幸せにする実にさりげない「おもてなし」をします。京都に本社がある任天堂と仕事をしながら私はそのことを心底思い知りました。そしてゲームニクス理論は、ゲームというインタラクティブ(双方向)メディアにおける「京都のおもてなし」を基本とした形成された体系であり、海外の人が簡単に真似することのできない、日本人ならではのテクニックといえるのです。
近年、日本のものづくりはやや元気がないようですが、私は「ゲームニクス理論」の応用によって再び世界を席巻する日が来ると信じています。そしてそんな時代の主役となるのが、今、私が大学で教えている世代の若者たち。明日の日本の「ものづくり」と「ひとづくり」を目標に、私もまだまだ頑張らねばと思っています。
#亜大の研究
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