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体験・実践を通して
すべての人が楽しめる
新しい旅の価値を探る

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#亜大の研究
久保田 美穂子 准教授
経営学部 ホスピタリティ・マネジメント学科
2025.01.01
シリーズ企画「面白くなければ学問じゃない!」では、亜細亜大学の教員陣の研究内容やエピソードを紹介します。第13回の特集は、経営学部 ホスピタリティ・マネジメント学科 久保田美穂子 准教授です。
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「あの山の向こうには何が?」が私の原点

私が生まれ育ったのは長野県。日本アルプスと呼ばれる大きな山脈と日本一長い川・信濃川(千曲川)などの豊かな自然、さらに温泉やスキー場、歴史スポットなどに恵まれた「観光県」です。父の仕事の関係で県内のあちこちで暮らし、同じ県内でも地域ごとに個性があることを子ども心に興味深く感じていました。そして山に囲まれた長野県での生活の中でいつも「あの山の向こうにはどんな人がどんな暮らしをしているのだろう?」と夢想する子どもでもありました。
もう一つ子どもの頃の「趣味」といえば、地図帳などに掲載されているカラフルな世界の国旗を見ることでした。各国の個性あふれる国旗デザインを眺めながら「いつかこの国に行こう」と想像する時間がとても楽しかったことを覚えています。
 そんな私が東京の大学で外国語(ドイツ語)を専攻することにしたのは必然だったのかもしれません。そして大学時代の思い出といえばなによりも「旅」でした。国内では北海道一人旅が楽しい思い出です。また大学3年生の春休みにバックパッカーとして約1か月間ヨーロッパ各国を巡りました。今思い返すと「よくそんな勇気があったな」と感じますが、当時は「未知の世界を自分の足で歩くこと」へのわくわくでいっぱいでした。体を動かすのが好きで、大学でも体育会バドミントン部に入っていましたので体力にも自信がありました。
 ヨーロッパ一人旅から戻って新学期が始まるとすぐに就職活動のシーズンになりましたが、やはり私は「旅を仕事にしたい」という思いが強く、旅行会社の「日本交通公社(現:JTB)」に入社しました。

旅行会社に就職するも「研究機関」へ異動することに

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入社後、最初は海外団体旅行の担当になり、法人への営業なども経験しました。ところが入社後1年ほどすると、「公益財団法人日本交通公社」という別組織に異動になりました。この組織は旅行・観光を専門とする実践的な研究機関で、その研究成果をセミナー・シンポジウムの開催や書籍の出版などを通して社会に還元するほか、旅行・観光関連の蔵書を所蔵する「旅の図書館」を運営しており、私はその館長を務めたこともあります。
また観光分野を専門とするシンクタンク・コンサルタントとして、国・地方公共団体・公的機関などから業務を受託し、町おこしや観光振興に関する提案・提言を行いました。
実を言うと、研究機関に異動した当初は「観光に研究なんて必要なの?」と思っていました。しかし研究員として全国の観光地で自治体や旅館など観光業に携わる方々と交流していく中で、次第に新しい仕事の面白さを感じるようになりました。たとえば、学生時代は貧乏旅行をしていた私にはほとんど縁がなかった高級旅館を営む方々と接する経験は、いわば異文化交流で、観光の現場にある想いや知恵を知る楽しさがありました。また、研究機関ですから、同じ職場にさまざまな分野のスペシャリストの方々がいらっしゃって、旅や観光と経済や環境の関係などについての視野が大きく広がりました。折しも全国で「観光まちおこし」が盛んに取り組まれるようになった時代、旅行者の動向分析や観光地計画、セミナー・シンポジウム企画などに携わるようになり、仕事に大きなやりがいを感じるようになっていきました。

誰もが旅を楽しめる「ユニバーサルツーリズム」とは?

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その後、約30年間のシンクタンク研究員としての実績をベースに亜細亜大学経営学部ホスピタリティ・マネジメント学科に実務家教員として着任しました。自分がこれまで経験してきた観光地や観光事業の研究について若い世代に伝えることができるのは素晴らしいことだと思いました。ただし私は観光の調査・研究のプロだったかもしれませんが、「教える」プロではなかったという不安もあり、最初の頃は学部の先輩の先生方に助言をいただいたり、授業を参考にさせていただいたりもしました。
そんな初心者大学教員だった私が出会ったテーマが「ユニバーサルツーリズム」でした。年齢・国籍、障がいの有無などに関わらず、できるだけ多くの人が利用しやすいように製品、建物、空間などを設計(デザイン)することを「ユニバーサルデザイン」と呼びますが、その考え方を旅行にも当てはめたのが「ユニバーサルツーリズム」です。かつては「バリアフリー観光」とも呼ばれており、一部の旅行会社は取り組んできましたし、全国各地には障がい者、高齢者などの旅をサポートするためにNPO法人などが運営する「バリアフリーツアーセンター」なども開設されています。
私は政府の委員会委員としてユニバーサルツーリズムの実態を調査したり、観光産業に従事する人々に向けた「接遇マニュアル」作成の仕事に関わりました。今年は「障害者差別解消法」の改正があり、障がい者など配慮が必要なお客様にどのように接したらよいのか困惑している旅館など観光業の方々は少なくありません。しかしよく調べれば、多くの課題はしっかりコミュニケーションを図ることで解決することがわかります。法律は合理的な範囲での配慮を求めており、経験と気持ち次第で工夫できることはたくさんあるのです。「接遇マニュアル」ではそうした実際の配慮についてわかりやすく解説しています。

学生たちと共に「ユニバーサルツーリズム」のさらなる可能性を考える

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現在「ユニバーサルツーリズム」の考え方に積極的に取り組む観光地も出てきましたが、全国的に考えるとまだまだ取り組むべき課題は多く残されています。そして私は「ユニバーサルツーリズム」の調査・研究に取り組む中で、この考え方の真価は高齢者や障がい者に限らず、あらゆる人にとって価値がある旅の姿を目指すことなのではないかと思うようになりました。いわゆる「健常者」は観光を楽しむ際、その多くを視覚に頼っています。しかしもっともっと聴覚や触覚、嗅覚などを研ぎ澄まし、観光体験を深めることができるはずなのです。
私が担当している2年次の科目「トラべル研修」では、都内にある「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」に学生と出向きます。ここはまったくの暗闇空間の中で視覚以外の感覚を使ってさまざまなシーンを体験するドイツ発祥のエンターテイメント施設です。最初は闇を怖がっていた学生たちも徐々に触覚や聴覚など五感を駆使して体験を楽しみ、積極的なコミュニケーションの重要さに気付きます。また、通常配慮が必要な視覚障がい者と健常者の立場が暗闇では逆転していることに気が付きます。私はそれこそが「ユニバーサルツーリズム」を考える重要な出発点であると考えています。
単に高齢者や障がい者に限定せず、文字通りUniversal(普遍的な)と捉えることによって視覚だけに頼らない深い旅行体験を全ての人が味わう機会を創出することができるのではないか……。現在私はこうした問題意識を持って全盲の文化人類学者である国立民族学博物館(大阪府吹田市)の広瀬浩二郎教授や富山国際大学の一井崇准教授と研究会を立ち上げ、これからの「ユニバーサルツーリズム」の可能性を探っています。一井准教授のゼミとはわが国有数の山岳観光ルート「立山黒部アルペンルート」がある富山県立山町での合同ゼミ合宿を実施し、五感に着目して、埋もれた観光資源の可能性について考えました。
そのほか私のゼミでは京都やキャンパス周辺地域での学外活動なども実施して、実践や地域の人々との交流の中で学んでもらう機会を重視しています。2024年度には2年生が東京都西多摩郡日の出町の生涯学習事業「ひので町民大学総合講座」に参加し、オリジナルの「日の出町カルタ」作成を通して地元の方々と交流しました。
卒業後の進路としてはやはり旅行会社やホテル、空港や交通機関などに進むゼミ生が多いのですが、福祉業界や一般企業に進む学生もいます。たとえ観光とは直接関係なくても「ユニバーサルとは何か?」を考えたり、観光産業におけるホスピタリティに触れた経験は社会人として必ず役立つはずだと思います。ゼミの学生には卒業論文を課しているのですが、アニメや音楽、アイドル、スポーツ、平和などの視点から観光や地域活性化を考えるテーマを設定するなど、彼らの論文を通して私の方が気付かされることもたくさんあります。当初、「イマドキの大学生って何を考えているのだろう?」とドキドキしながら大学教員となった私ですが、今では学生たちが毎年成長していく姿を見ることがなによりも楽しいです。
#亜大の研究
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