面白くなければ学問じゃない!No.3

146ヶ国中125位!?
日本はジェンダー平等の
超・後進国だという衝撃

秋月 弘子メインINDEXーPC
秋月 弘子メインINDEXーSP
#亜大の研究
秋月 弘子 教授
国際関係学部 国際関係学科
2023.11.01
企画シリーズ「面白くなければ学問じゃない!」では、亜細亜大学の教員陣の研究内容やエピソードを紹介します。第3回目の特集は、国際関係学部 国際関係学科 秋月 弘子 教授です。
秋月 弘子イメージ1

政治・経済分野での
大きなジェンダーギャップ

ジェンダーギャップ指数というものがあります。世界経済フォーラムが2006年から発表しているもので、経済・政治・教育・健康の4分野で各国の現状を評価しています。
2023年、日本は146ヵ国中125位とされました。前年から9ランクもダウンして過去最低の評価です。もともとランクは低かったのですが、これは衝撃的なことでした。特に政治分野は138位、経済分野では123位という順位です。教育では47位。しかし前回データがなかった高等教育就学率の男女比が加わったことでスコアと順位を落としました。健康分野では59位。医療現場自体、女性が役職など上級職に就くにはまだまだ壁があるのが現状です。世界経済フォーラムではそうした状況に関しても詳細なデータを取って評価しています。
ジェンダーギャップ指数(GGI)2023年出典:内閣府男女共同参画局 ( https://www.gender.go.jp/international/int_syogaikoku/int_shihyo/index.html )
14年間も連続1位なのがアイスランドです。グラフを見ていただければわかるように、日本は4分野の評価がほぼ三角形ですね。一方、アイスランドは四角形です。政治分野での差は非常に大きくなっています。なぜなのでしょうか。以前、アイスランドの駐日大使に聞くと4つの理由を語ってくれました。
まず、ジェンダーギャップ解消に向けての強固な法律と政策を作ってきたこと。学校教育などを通して男女平等文化を醸成してきたこと。国際的な取り組みに積極的に参加して、問題点をなくす努力をしてきたこと。そして最後が最も大切な点。男性の意識を高め、参与を促すということです。
日本では“女性の権利”の話として男性には他人事と思われがちです。しかし社会全体の課題なのですから男性が関わるべきなのは本来当たり前の話です。
アイスランドに限らず多くの国々がジェンダーギャップを解消し、指数ランクを上げるために具体的に行動しています。日本の順位が落ちていっているのは、諸外国が努力しているのにもかかわらず“ほとんど何もしていない”からです。ジェンダーギャップを取り巻く状況が変わらないままでは、今後もさらに順位を落としていくのは間違いないでしょう。

他国では法や制度で
ギャップ解消へ努力

秋月 弘子イメージ2
そもそも“ジェンダーギャップ”とは何でしょうか。“女性差別”との違いは?
ジェンダーとは生物学的な男女分類ではなく歴史や文化、社会慣習の中で作られてきた性差意識を言います。「女性は感性がこまやかで優しい」「まとめ役はやはり男でなきゃ」「気が利く人は女子力が高い」「男なら恋人や家族を支えなければ」……。それらはいつしか私たちの心に刷り込まれた概念。社会に期待される姿とも言えます。しかし、その呪縛に苦しむ人は男女を問わず大勢います。無意識に受け入れてしまっている幻想のジェンダー像とのバイアスが人を生きづらくさせているのです。

女性には向かないとされてきた職業も多々あります。けれども今は、消防士、自衛官、土木や建築、漁業などでも多くの女性たちが活躍しています。しかし前述のように、日本は政治や経済の分野で極めて低いジャッジをされています。データを見ると、なるほどとわかるはずです。
国家公務員の女性の割合は、上級管理職ではカナダは44.6%、イギリス、アメリカ、イタリア、ドイツ、フランスも30~40%台です。韓国は8.6%ですが、日本は4.2%。中級管理職ではドイツやカナダは50%以上、韓国も25.7%なのに対して日本は4.9%しかいません(2021年調査)。
諸外国の国会議員に占める女性割合の推移
また、国会議員に占める女性割合を7ヵ国で見た調査(グラフ)では、1980年にはスウェーデン以外は10%以下の国が多数でしたが、今ではどこも割合を大きく伸ばしています。なのに日本は1980年の2.2%から10%に至っただけ。世界193ヵ国での平均は26.6%であり、その中で日本は164位という低さなのです。
日本は今後10年間で女性議員を30%にと掲げていますが、あくまでも目標であり、義務ではありません。しかし多くの国では女性議員を増やすための法律を設けています。
例えばフランスでは2000年に「パリテ法」を制定。パリテとは均等・同量という意味で、国政・地方のほぼ全ての選挙で各党の候補者を男女同数にするよう義務づけるものです。違反すれば罰則もあります。2013年の改正では、女性議員がなかなか増えなかった地方議会選挙において、男女ペア立候補の制度が作られました。有権者もペアに投票するわけです。ペアは異なる政党や会派で組むことが推奨されています。こうした政策により、フランスの女性議員数は飛躍的に増えました。
イギリスでは女性指定選挙区という制度があります。現職議員が引退を表明するなどで次候補の当選の可能性が高い選挙区において、候補者を女性に限定するというものです。また、町内会などでは男性がリーダーになりがちなので必ず女性に同席してもらうことになっています。国の問題同様、自分たちが生活する地域の課題を考えるうえで、女性の視点は必須だからです。

女性の登用が
企業価値を上げる

経済の分野では、日本は上場企業の女性役員数は2022年までの10年間で5.8倍に増加しました。しかし9.1%に過ぎません。フランスは45.2%、イタリアは42.6%です。また労働者総数の男女比はほぼ拮抗しているにもかかわらず、IT系技術者では女性はわずか19%となっています。賃金格差も見逃せません。男性と同じ仕事内容でも、女性の賃金は低く抑えられています。国際比較で見ると、男性のフルタイム労働賃金を100とした場合、平均値は88.1。90を超えている国も多数あります。しかし日本は77.9です。女性の割合が多いケア労働の賃金の低さも問題視すべきでしょう。十分な労働対価が得られない日本の女性は、退職後や配偶者との離婚、死別後には貧困に直面しがちです。
実際は企業にとっては、自社で女性が活躍することは経営的にも大きなメリットがあります。消費者の半分は女性ですから、女性目線で開発する商品は収益増につながるでしょう。また、投資家たちも女性役員の割合やダイバーシティへの取り組みなどを重要な指針としています。これら社会的課題に積極的に向き合う企業ほど投資を呼べるのです。今はそれをわかってきた大手企業はどこもさまざまな取り組みを重ねています。今後は中規模企業にも広がっていくことが必要でしょう。
 
世界にはジェンダー平等のための法や制度を持つ国が多数あります。国会内にジェンダー平等委員会などを設置して法律の見直しもしています。なぜなら、どの国もやはり歴史的に「女性に政治や経営は無理」「女性が男性をリードするのははしたない」といった性差意識があったから。自然に任せていては人々の意識は変わりません。制度をしっかり作ることで、ジェンダーギャップ解消に取り組んできたのです。女性の地位が低い印象のあるイスラム圏のモロッコやエジプト、インドネシアなどでも、女性議員は3割以上という決まりがあります。今の日本は完全に周回遅れです。

国連の女性差別撤廃委員会とは?

秋月 弘子イメージ4
女性に有利な制度を、男性への逆ジェンダー不平等ではないのかという声もあるでしょう。けれども、まず目的とするべきは、これまでの数百年に及ぶ不平等をなくすこと。女性を排除あるいは低い地位に置いていた旧来の社会を変えるための暫定的な法や制度が必要です。それによって男性側の意識も変わっていきます。そして平等な状況になったなら、その時点で女性だけを優遇するのではないニュートラルな形にすればよいのです。実際、スウェーデンでは成果が出てきたところで優遇政策をやめました。アイスランドでも今年から女性有利からジェンダーニュートラルな法に戻しました。

国連には女性差別撤廃委員会が設置されています。各国から選出された23人の委員がいて、私もそのひとりです。1981年に発効した女性差別撤廃条約に基づいて加盟189ヵ国の状況を審査し、勧告書を出します。年に3回ジュネーブに行き、担当する複数国の代表団の話を聞きます。
勧告書はそれぞれの国の政策を動かします。日本は2016年の審査の後、女性の婚姻年齢を16歳から18歳に引き上げ、離婚後の再婚可能期間も半年から100日に法改正しました。夫婦別姓の選択については勧告されていてもまだ実現していません。無意識な「女性らしさ」「男性らしさ」による間接差別の解消も勧告されていますが、具体的な取り組みには至っていません。次回の審査ではどう評価されるか……。厳しいところかもしれません。

亜細亜大学で学ぶ学生の皆さんや、若い方たちには、ジェンダーギャップ解消への世界の動きや日本の現実を直視し、この社会を変えるためには何をすべきか考えてほしいですね。その選択が、男女を問わずみなさん自身の将来に密接に関わることなのですから。
#亜大の研究
当サイトではCookieを使用します。Cookieの使用に関する詳細は 「クッキーポリシー」 をご覧ください。
同意する
拒否する